もう一つのラーメン即席物語

とびっこコラム

第四回

学生時代から京都に住むミュージシャンとチャンポンめん

イトメンの製品は京都のスーパやコンビニではほとんど見ない。
実際にいろんなお店をさがしても見つからないし、「イトメンのチャンポンめん?そんなん知らんわ」という、「残念なイトメン」を地でいく典型である。
けれどもわざわざ「取り寄せて」食べている、「隠れイトメン信者」がいるのだ。

イトメン製品のシェアが高い播州や北陸の出身者が、京都に進学や就職で来て「やはりこれじゃないとダメ」とひそかに地元から送ってもらったり、Amazonなど通販で買ったりしているのがそうだ。

ギター、チェロ、アコーディオンからなるアコースティック・バンド「ザッハトルテ」のギタリスト、ウエッコこと上田昌宏さん(35歳)がその一人。
ヨーロッパの薫り高いインストゥルメンタル音楽を奏でる「ザッハトルテ」は、年に100回以上ライブをやっている。
全国レベルのツアーのほか、地元京都では毎月第3月曜、西陣のカフェ・レストラン「さらさ西陣」で「お食事ライブ」を行っている。
2010年にNHK教育テレビ「おかあさんといっしょ」に出演し、「9月のうた」でオンエアーされたほどの実力派だ。

またスティールパン奏者の奥さんとは「めめとウエッコ」というユニットで、ライブ活動を行っている。

その上田さんを訪ねて京都市上京区、御所のあたり、ちょうど鴨川を挟んで京都大学を臨む閑静な住宅街にある「かもがわカフェ」におじゃまする。

2階はフリースペースになっていて、その階上にまたペントハウス的なスペースもある、オシャレなカフェで、よく雑誌などに紹介されている。

上田さんと「かもがわカフェ」のマスターとは長い友人で、ライブもしばしば開いている。
今日は、ヤイリギターに別注したウクレレを持ってきている。

上田さんは岡山県の備中高梁のご出身で、地元の高校から京都の立命館大学へ進んだ。
卒業後はずっと京都に住んでいる。
実家は「小学校の前にある、食料品、文房具とかの“何でも屋”」とのことで、そこでイトメンのチャンポンめんを店頭に置いていた。
なので「土曜日の昼とか、しょっちゅう食べていました」とのことだ。
「実家で見る地方のテレビ局では、イトメンの“二八そば”のコマーシャルが流れてましたよ」

京都ではイトメン製品が入手出来ない、だから岡山の実家から送ってもらっていた。
「ツアーで北陸とかに行くじゃないですか、すると(チャンポンめんを)見かけて、お、ここでは売ってるな、なんて思いますね」
前回、金沢で圧倒的なシェアを誇ることに触れたが、ちなみに北陸と兵庫県播州の地元以外は、岡山、広島、鳥取、徳島、香川、愛知、鹿児島で主に売られている。

とにかくチャンポンめんに親しんでいる上田さんは、缶バッジやノートのイトメンのノベルティを手にしてにっこり。早速、缶バッジを胸に。

「ぼくのチャンポンめんの食べ方は、何も入れないんですよ。“素”で食べるのがいいんです。スープについている干しエビとシイタケだけで、これがいいんですよ。無塩製麵だからもあってですかね。1回で2袋食べることもありますね(笑)」とのことだ。 そう言いながら「岡山時代は7人家族でしたから。野菜炒めをつくって、それをお湯と一緒に鍋に入れてそこに麺を入れるんです」と懐かしく語っている。

けれども「スープの味がめちゃめちゃおいしいので、ほんとは余計なものを入れなくていいんですけどね」とつけ加える。
食べ方は家族で食べるのか、一人なのかで変わるようだ。

京都の街場で「外食する」ラーメンは、場所柄「うす味、あっさり」がイメージされるが、さにあらずで、背脂などを使う店が多く、「天下一品」をはじめコテコテ濃い味が定番だ。
「チャンポンめんは家で常備するラーメンです。あさっりしていて絶対飽きないのは、これですよ」
とのことで、「通信販売で、チャンポンめんの5個袋入りを2つ3つ、ついでにチャンポンめん海鮮風とか、見たこともない新しいのを入れて、箱で買っています」。
これは相当の根強いファンと見た。

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江 弘毅(こう ひろき)
<編集者・著述家>
雑誌・新聞の連載・執筆、京阪神の「街」と「食」「岸和田だんじり祭礼」中心の書籍編集のほか、NHKラジオ第1放送『かんさい土曜ほっとタイム』などにレギュラー出演。
岸和田だんじり祭の祭礼関係者であり、2003年五軒屋町若頭筆頭。その日記連載のブログ(HP「内田樹の研究室」内の「日本一だんじりなエディター」江弘毅の甘く危険な日々)が単行本化されたことから「だんじりエディター」として取り上げられることがある。2010年五軒屋町曳行責任者。
神戸学院大学人文学部客員教授(2005年)、京都精華大学人文学部非常勤講師(まちづくり論、2007年 - 2010年)、神戸女学院大学文学部非常勤講師(2008年 - )。
2014年の140BのWEB連載をきっかけに自らのカメラで写真も撮り始める。

●主な著書
岸和田だんじり祭だんじり若頭日記(晶文社,2005年)
「街的」ということ〜お好み焼き屋は街の学校だ(講談社現代新書,2006年)
京都・大阪・神戸 店のネタ本(編著、マガジンハウス,2006年)
岸和田だんじり讀本(編著、ブレーンセンター,2007年)
街場の大阪論(バジリコ,2009年. 新潮文庫,2010年)
ミーツへの道 「街的雑誌」の時代(本の雑誌社,2010年)
「うまいもん屋」からの大阪論(NHK出版,2011年)
『大阪人』増刊号「ちゃんとした大阪うまいもんの店」(吉村司と共著、大阪市都市工学情報センター,2011年)
飲み食い世界一の大阪 〜そして神戸。なのにあなたは京都へゆくの(ミシマ社,2012年)
有次と庖丁(新潮社,2014年)

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